スタッツ解析・分析シリーズ(1) ゴルフにおいてスタッツによる分析・解析が重要な理由とは?

欧米では野球、テニス、バスケットボールなど様々なスポーツにおいてスタッツ、数字に基づいて解析、分析が一般的なものとなっています。

その選手の才能や実力を評価する上で、客観的な事実、すなわちデータや数字を分析や解析の根拠とすることが一般的です。

またチームスポーツにおいては選手の能力を正確に把握すること、チーム編成のバランスをとるために重要であるため、数字とデータでの重視が重視されています。

ところが残念ながら日本においてはスポーツ全般の報道において、そのようなデータに基づく解析が重視されていません。

そして特に日本のゴルフ報道においては、数字とデータによる分析や解析というものが遅れをとっている印象です。

しかし、体格などで劣る日本人選手が世界で活躍するためには、スタッツを詳細に分析することがもたらすメリットを最大限に活用する必要があり、それがメディアでも重視されることは必要ではないかと考えられます。

では、スタッツで分析することに、どのようなメリットがあるのでしょうか?

スポンサードリンク

正しい練習に多くの時間を費やせ、メンタル面でのメリットも

PGAツアーのみならず、世界のゴルフシーンにおいてスタッツ解析の権威と考えられるのが、コロンビア大学ビジネススクールのマーク・ブローディ教授です。

そのマーク・ブローディの著書『ゴルフデータ革命 SG指標で「1打の重み」を可視化する』、原著の題名は”EVERY SHOT COUNTS”の冒頭で、著名なプロコーチであるショーン・フォーリーが興味深い内容を語っています。

ショーン・フォーリーはジャスティン・ローズ、ハンター・メイハン、リー・ウエストウッド、エドアルド・モリナリ、そして一時はタイガー・ウッズのコーチも務めた世界のトップクラスのコーチです。

そのショーン・フォーリーは以下のように語っています。

正しい練習に時間をかけるのは重要だ。好きなショットや得意なショットを練習するのはたやすい。得意なショットを練習することに反対するつもりはない。たが苦手なショットを練習することも大切だ。かつてはその点で反発してくる教え子もいたが、目の前に数字を突きつけられると反発しにくくなる。
こうした数字のおかげで「ほら、君は優勝するのにこの点が足りない、賞金を稼ぐにはこの点が足りない。だから自分の好きなショットだけでなく、数字から練習不足だとわかったショットの練習にもっと時間をかけるべきだ」と教え子に話すこともできる。彼らは数字を見て、ただ、「ああ、わかったよ」と言うしかないのである。

引用元:ゴルフデータ革命 P6

ショーン・フォーリーは、本当に勝つために練習が必要なものをデータによって見つけ出すことができると述べています。

あまり練習しても向上しても元々スコアに占める割合が低いため効果的ではないものや、すでに高いレベルにあるためスコアを伸ばすことにつながらない練習の優先順位を落とし、よりスコアを伸ばすことに直結する練習の優先順位を上げることがスタッツによって可能となります。

トッププレイヤーたちは、どの選手も多くの練習をこなしていて、実力が拮抗しているため、重要なのは練習の質を高める、そして勝利によりつながる練習の量を多くすることが大切になります。

その「正しい練習に時間をかける」ことをできるようにするためには、スタッツ・データの解析が重要だということです。

またコーチとしてトッププレイヤーを勝たせるために必要な練習を適切に見つけ出せるだけでなく、その練習を納得させることに役立っているとショーン・フォーリーは述べています。

トッププレイヤーと言えど、得意な分野のショットは自分のイメージ通りにできるため練習をしても苦痛ではないですが、思い通りにならないショットはストレスが溜まるため、避けがちになってしまいます。

しかし、コーチとして客観的に見て勝つために必要な練習を課そうとすると、得てして苦手な分野の練習が多くなるため、選手から反発されてしまうこともあるということです。

それでも数字で具体的に示されると、渋々ではあるかもしれませんが、勝ちたい気持ちを持っているため取り組んでくれるようになるということです。

そしてスタッツ解析はメンタル面でのメリットもあるとショーン・フォーリーは説明します。

 もうひとつ、メンタル面でのメリットもある。ある日、ジャスティン・ローズから「僕はウェッジをもっとうまくなりたい。得意じゃないからもっと練習しなければならない」と言われた。わたしは「それはおかしい。マーク・ブローディによれば君はウェッジがPGAツアーで一番うまいよ」と答えた。彼はその数字を見た途端に自信を深めて「さあ、僕は誰よりもうまいのだから絶好のチャンスだ」と思いながらショットできるようになった。
 世界中を探しても、こうした数字以上に選手を納得させられるメンタルトレーナーは見当たらない。数字はあまりにも合理的で、あまりにも論理的だ。

引用元:ゴルフデータ革命 P6

ジャスティン・ローズはウェッジに自信がなかった、思い通りにできていないと考えたいたようですが、実際にはPGAツアーでNO.1と考えられるデータが残っていたということです。

しかし、真実のデータを知ったローズは「苦手なウェッジ」だと不安を感じながらショットしていたのが、「PGAツアー屈指のウェッジ」だと自信を持ってショットできるようになったということです。

そしてこのような自信を持たせることは優秀なメンタルトレーナーでも困難なことだが、数字のデータであればそれができるとショーン・フォーリーは、自身の体験から語っています。

正確なプレーのデータによる解析は選手の育成に有効

そしてこれらのデータや詳細な解析を用いた指導によってより強い選手を育てることができるようになったとショーン・フォーリーは語っています。

 わたしはこの手法のおかげで、教え子をさらに強い選手に育て上げることができるようになった。PGAツアーにはスコアの6%しか占めないショットの練習に数時間を費やしている選手がいるが、わたしの教え子たちは練習場で手の皮がすりきれるまで4番アイアンを打っている。

引用元:ゴルフデータ革命 P7

元々、ショーン・フォーリーは直感的に距離のあるアイアンショットが重要だと感じていて、190-230ヤードの練習を多くするように指導してきたそうですが、周囲からは「教え子にもっとウェッジを練習させるべきだ」と言われてきたそうです。

しかし、1ラウンド中に80ヤードのウェッジでショットを打つ機会はそれほど多くないとフォーリーは考えて、自身の直感を信じて指導を続けてきたとのことです。

ところが、マーク・ブローディ教授が開発したストロークスゲインド(Strokes Gained)などによって、ウェッジよりもロングアイアンの方がより重要だということが証明されているため、今はより確信をもってフォーリーは指導できているそうです。

日本のツアーではセカンドをショートアイアンやウェッジで打つことができますが、PGAツアーではロングアイアンを握る回数が多く、図抜けた飛距離がある選手でない限り、ショートアイアンやウェッジを使わせてもらえません。

そのためロングアイアンは非常に重要になるのですが、それをデータで客観的に証明できるようになったことは、コーチングする上で大きなプラスになったようです。

先入観や思い込みを排除することは正確な分析には不可欠

一度、先入観や思い込みがでてきしまうと、なかなか正確に物事を把握できない性質が人間にはあります。

それはジャスティン・ローズが「ウェッジが得意ではない」という誤った思い込みを持っていたことからも良くわかることです。

しかし、それは選手本人だけでなく、選手を分析する専門家にも同様のことが言えます。

そして人間性の好き嫌い、もしくはプレースタイルの好き嫌い、そして利害関係などに影響されて、正確に分析ができなくなってしまうのも人間の性質です。

人間には相性がありますので、どうしても好きになれないタイプ、そして好みのスタイルなどが存在するのは当然のことです。

ただ、そういった個人的な感情が選手の能力や実力を評価する際に影響を及ぼしてしまうと、誤った分析につながってしまうことになります。

しかし、数字という客観的なものであれば、それらの影響を完全には排除できませんが、小さくすることはできると考えられます。

欧米の記者やライターは分析があまりにも的外れであれば、書く内容や話す内容の信頼性を損なうことになり、以降の自身のキャリアにも影響を与えるため、好き嫌いや利害関係などを除外して、正確に選手の能力を評価することを重視しています。

ですが、日本のスポーツ界、特にゴルフ界では数字やデータを重視した分析は多くありません。

ただ、世界で活躍するレベルの選手を増やすためにも、こういったスタッツの解析が非常に重要ではないかと考えられます。

特に体格で劣る日本人が世界で勝つためには、このようなデータ解析を最大限に活用することが必要です。

松山英樹は世界でも高い評価を受けていますが、それでもアメリカの記事の中には”underrated(過小評価)”されている選手の1人だとして名前が挙がることがあります。

というのも、スタッツの分析をすると世界ランクトップ10水準にあり、トップ5に近づくような内容があるためです。

ところが日本では、そのような事実を詳細に伝える記事をほとんど目にしないことからも、欧米から大きく遅れをとっていると考えられる状況です。

しかも、ショーン・フォーリーがデータによる分析の重要性を述べていますが、これは旧来からのスタッツに基づくものではなく、新たに導入されたストロークスゲインド(Strokes Gained)による解析の重要性です。

旧来からのスタッツには問題があるため、正確に分析するための十分な情報を提供できていないのがその理由なのですが、日本はこの点でも大きく遅れをとっています。

この記事に関連するシリーズの記事は以下のとおりです。

  1. バウンスバックと優勝に因果関係はあるのか?2014-15シーズンのPGAツアーの優勝者のデータで検証
  2. パッティングと優勝の関連性は?2014-15シーズンのPGAツアーの優勝者のデータで検証
  3. スタッツ解析・分析(1) ゴルフにおいてスタッツによる分析・解析が重要な理由とは?
  4. スタッツ解析・分析(2) データ・指標分析を重視し選手を指導している世界のプロコーチたち
  5. スタッツ解析・分析(3) 伝統的な旧来からのゴルフのスタッツが抱える問題点とは?
  6. スタッツ解析・分析(4) PGAツアーの距離別のパット数の平均値とストロークスゲインド(Strokes Gained)

スポンサードリンク

よく読まれています

コメントは受け付けていません。

このページの先頭へ