パッティングと優勝の関連性は?2014-15シーズンのPGAツアーの優勝者のデータで検証

前回に引き続き「松山英樹のデータは良くなっているのに、なぜ優勝できないのか」という分析をした日本メディアの記事で、その分析結果は「バウンスバック率、パッティングが悪いからだ」という結論が適切なものなのかを検証していきたいと思います。

前回の記事ではバウンスバック率が向上すれば優勝できる、またはバウンスバック率が悪いと優勝できないという結論は適切ではない理由を説明しました。

今回は松山英樹は「パッティングが悪いから」という分析が適切なものかを見ていきます。

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松山英樹のパッティングはPGAツアーで優勝するのに十分な水準

まず最初に述べておきたいのは松山英樹の2014-15シーズンにおけるパッティングのスタッツは(1)PGAツアー中位で酷いレベルのものではないこと、そして(2)2013-14シーズンから大幅に改善されていること、(3)パッティングのスタッツが悪い選手も優勝している、という事実です。

(1)パッティングはPGAツアー中位で酷いレベルのものではない

松山英樹の主要なパッティングに関するスタッツは全184名中で以下のとおりとなっています。

  • 1パット率:40.17%(63位T)
  • 3パット回避率:3.11%(104位T)
  • パーオン時の平均パット:1.740(21位T)
  • トータルパッティング:201.9(93位)
  • ストロークスゲインド・パッティング:+0.077(86位)

トータルパッティングとは3-5フィート、5-10フィート、10-15フィート、15-20フィート、20-25フィート、25フィートより長い距離からのパッティングのスタッツ、3パット回避率の6つを総合したもので、パッティングの総合力を示しています。

3パット回避率とトータルパッティングの2つはPGAツアーの平均以下となっていますが、1パット率、パーオン時の平均パット、ストロークスゲインド・パッティングはPGAツアー平均を上回っています。

パッティングが良いとまでは言えませんが、悪いということもできない数字です。あくまでもショットに比較すれば弱点というだけの話であって、PGAツアーでも十分に通用していて、優勝できるレベルのものです。

パーオン時の平均パットに至ってはPGAツアーでも上位にランクされていて、非常に多くのバーディパットを沈めていることがわかります。

バーディ率はPGAツアー全体で8位、平均スコアが同12位にランクされる原動力にパッティングがなっていることがわかるスタッツとなっています。

(2)2013-14シーズンから大幅に改善されている

項目 2013-14 2014-15
1パット率 40.49%:50位 40.17%:63位T
3パット回避率 4.17%:169位 3.11%:104位
パーオン時の平均パット 1.770:85位 1.740:21位T
Strokes Gained Putting -0.393:156位 +0.077:86位
トータルパッティング 280.9:157位 201.9:93位

1パット率がやや落ちた以外は2013-14シーズンよりも向上しています。

パッティングのスタッツが良くなかった2013-14シーズンでしたが、当時の世界ランク1位、マスターズ王者が揃うフィールドのメモリアル・トーナメントで優勝しています。

2014-15シーズンではパッティングのスタッツが向上していますが、優勝できませんでした。

優勝したシーズンよりもパッティングのスタッツが悪くなっているのならば、優勝できなかった理由がパッティングだという分析になるのは論理的と言えます。

優勝したシーズンよりもパッティングが良くなっているのに、優勝できなかったのはパッティングが問題というのは、客観的な事実に基づいた論理的な結論・分析とは言い難いものがあります。

(3)パッティングのスタッツが悪い選手も優勝している

2014-15シーズンのPGAツアーで優勝した選手のストロークスゲインド・パッティング(パッティングで稼いだ打数)、トータルパッティング、パーオン時の平均パット数のスタッツとランキングをまとめたものは以下のとおりとなっています。

*SG:Putting(ストロークスゲインド・パッティング)
2014-15 PGA Tour Winners Putting Stats

ローリー・マキロイとシェイン・ローリーは規定試合数に到達していませんので、ストロークスゲインド・パッティングと平均パット数はスタッツから相当するランキングを記載しています。

なお、トータルパッティングは両者ともに算出されていません。

ストロークスゲインド・パッティング(パッティングで稼いだ打数)において松山英樹のスタッツ以下で優勝した選手は18名、松山英樹より良いスタッツで優勝した選手が17名となっています。

トータルパッティングでは松山以下のスタッツで優勝した選手が11名、パーオン時の平均パットでは24名となるなど、松山英樹よりもスタッツの悪い選手がかなり多く優勝しています。

また2014-15シーズンに2勝しているローリー・マキロイはストロークスゲインド・パッティング(パッティングで稼いだ打数)は-0.070で126位相当で、松山英樹よりも悪い数字となっています。

これらのスタッツを見ると松山英樹が優勝できない原因をパッティングだと結論付けるのは、やや客観的な根拠に欠けると言えます。

パッティングは世界のトップ10、トップ5に入るため、メジャー制覇のための課題に過ぎない

仮にパッティングが平均以下であってもPGAツアーで優勝できないわけではありません。

松山英樹がメモリアル・トーナメントを優勝した時のストロークスゲインド・パッティング(パッティングで稼いだ打数)は-0.025とマイナスで予選通過した76名中47位と上位ではありませんでした。

そして2015年のフライズドットコムオープンを制したエミリアーノ・グリージョはストロークスゲインド・パッティングが-1.503で73名中61位と下位に沈んでいました。

しかし、松山英樹はストロークスゲインド・ティー・トゥ・グリーン(ショットで稼いだ打数)とプロキシミティ・トゥ・ホール(グリーン周辺からのものを除くアプローチショット後のカップまでの平均距離)でフィールド全体のトップに立つなど、ショットが素晴らしかったため優勝しています。

それはエミリアーノ・グリージョも同様で、ストロークスゲインド・ティー・トゥ・グリーンが4日間トータルで12.756と他を圧倒しての1位だったことにより優勝しています。

このようにパッティングがフィールドの平均以下でもショットで圧倒して優勝するということは、過去のビッグトーナメントでもあるということは、ストロークスゲインドを開発し、ゴルフスタッツ解析の第一人者と言えるマーク・ブローディ教授の著書で示されています。

マーク・ブローディ教授は「パッティングは過大評価されている」と述べて、スコアに占める割合は15%程度に過ぎず、優勝する選手は高くなるものの、それでも35%にとどまることを著書で明らかにしています。

このマーク・ブローディ教授の示す内容については、以降のシリーズの記事の中で触れる予定のため、ここではこのような見解があるということにとどめておきたいと思います。

ここまで述べてきたような内容と前回の内容を総合すると松山英樹のスタッツが良くなっているのに優勝できなかった理由をバウンスバック率とパッティングとするのは、客観的な事実や根拠を欠く論理性の弱いものと言わざるをえません。

また分析として「木を見て森を見ず」という言葉の意味する「物事の一部分や細部に気を取られて、全体を見失っている」ものだと考えられます。

2014-15シーズンの松山英樹はショットのスタッツ良くパッティングが悪いという試合がシーズン前半に、パットのスタッツが良くてショットが悪い試合がシーズン後半に続きました。

このようにショットとパットのかみ合わない試合がシーズンを通じて多くなったため、全体を平均したスタッツは向上しましたが優勝できなかったと考えられます。

その点では調子の波をコントロールする”ピーキングが上手くできなかった”という側面があった可能性は否定できないと言えますが、技術的に大きな問題があったり、実力が不足しているわけではありません。

優勝した選手の中にはその試合の4ラウンドだけショットとパットが噛み合って優勝したものの実力的には劣るため、その他の試合では結果をあまり残せずシーズン全体としては成績が良くなかったり、長期シードが切れた後にシード落ちするような選手というのも少なくありません。

つまり、その時に運が良くて、調子の良さも噛み合ったので、たまたま優勝してしまう選手もいるということです。

では、松山英樹のメモリアルもマグレではないかという意見も出てくると思います。

しかし、4大メジャーでの実績、そしてPGAツアーでの2シーズンのスタッツを見れば、実力が世界のトップクラスにあることは疑いの余地はなく、メモリアルで運が味方したのは事実ですが、完全な運に依存しての優勝だったとは考えにくいものがあります。

ゴルフは元々、天候やスタート時刻など運に左右される要素が多いスポーツのため、実力が結果に反映されにくいスポーツの1つで、世界ランクのトップ3の選手でも勝率が高くありません。

ジョーダン・スピースが勝率.200(25-5)、ジェイソン・デイが.250(20-5)、ローリー・マキロイが.167(12-2)で勝率が3割を越えません。

また直近3シーズンで連続してPGAツアーで優勝できている選手はザック・ジョンソン、ジャスティン・ローズ、ダスティン・ジョンソン、パトリック・リードの4人しかいないことからも、実力があるからと言って優勝できるわけではないことは明らかです。

そのため松山英樹のスタッツが上昇し、実力的に問題が無くなくても優勝できないことは、起こりうることで、実力がある選手が勝ち運に恵まれないシーズンがあることは珍しいことではありません。

松山英樹のパッティングは弱点、課題ではありますが、PGAツアーで優勝できないというレベルにあるのではなく、毎シーズン優勝するため、世界のトップ10、トップ5に入るため、メジャー制覇するための課題に過ぎません。

この記事に関連するシリーズの記事は以下のとおりです。

  1. バウンスバックと優勝に因果関係はあるのか?2014-15シーズンのPGAツアーの優勝者のデータで検証
  2. パッティングと優勝の関連性は?2014-15シーズンのPGAツアーの優勝者のデータで検証
  3. スタッツ解析・分析(1) ゴルフにおいてスタッツによる分析・解析が重要な理由とは?
  4. スタッツ解析・分析(2) データ・指標分析を重視し選手を指導している世界のプロコーチたち
  5. スタッツ解析・分析(3) 伝統的な旧来からのゴルフのスタッツが抱える問題点とは?
  6. スタッツ解析・分析(4) PGAツアーの距離別のパット数の平均値とストロークスゲインド(Strokes Gained)

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3 Responses to “パッティングと優勝の関連性は?2014-15シーズンのPGAツアーの優勝者のデータで検証”

  1. lav より:

    まあ、それぞれのスタッツを独立してみるとそんなにひどくはないんですよね。

    それでもそういうイメージがつくのは、そのパットミスによる1打差逃しとかいうのがイメージとして強いからなのかもしれません。

    ただし私は、来年の戦いの上で重要なのは「グリーンオンした時にピンからの距離は短いに越したことはないが、それよりも狙いやすいラインに落とす」というマネジメントのさらなる向上かなと見てます。
    松山選手はそれが容易にできる人だと思いますので、それができる頻度が増えれば優勝回数もトップ10フィニッシュ回数も自ずと増えてくと思います。

  2. golf より:

    lavさん、コメントありがとうございます。
    テレビで中継されることが多いのは、スコアの決着がつくグリーン上になりますし、昨季は最終ホールで優勝に手が届く状況だったことによる印象の強さだけの問題だと思います。
    その印象や先入観にとらわれないようにスタッツで検証する必要があると思いますが、それが適切に行われない、恣意的に悪く切り取っているという感じでしょうか。
    ヒーローワールドチャレンジで内藤雄士さんが、タイガーは遠くても上りのラインに徹底的につけるようにしていたが、スピースもそうだと解説していました。
    そのあたりのマネジメントの差が縮まれば、優勝回数が自然と増えると私も思います。

  3. lav より:

    本年は5月から8月までのショットの不調もかなり影響してたということも自明の理ですので、来年はウッドのみならずアイアン、ウェッジのショットの精度もあげてくることもかなり高い確率で予想されることも付け加えておきたいと思います。

    4月までのようにイーグル連発も見込めるのではと。

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