イチローと松山英樹(1) 『上達の達人 – 大量に練習をこなすことで、質を飛躍的に高める』

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松山英樹のプレー、コメント、インタビューを読んでいると、イチローと似ていると感じることが多くあります。

メジャーリーガーのイチローは27歳で渡米してから3000本安打という偉業を成し遂げましたが、それに続くのは松井秀喜の1253安打、青木宣親の677安打となりますので、日本人プレイヤーとして傑出しています。

ただ、イチローの残している数字は日本人という枠を越え、メジャーの歴代記録においても偉大と言えるレベルに達していて、2016年時点での3029安打は歴代25位となっています。

なんだ25位かと思うかもしれません。

ですが、アメリカのメジャーリーグは100年以上の歴史がありますし、近年はドラフトで1200名程度が毎年指名されるため、生き残っていく争いは非常に厳しいものとなるのですが、その中での歴代25位です。しかも27歳からの16年で成し遂げているのは驚異的なことです。

そのためイチローの野球殿堂入りは確実と見られていて、アメリカメディアからもレジェンドと形容されていますし、野球が盛んなキューバでは神様のような存在だと、キューバから亡命してきた選手たちが話すほどです。

そのイチローと松山英樹の思考、メンタリティには相通ずるものがあります。

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イチローと松山英樹の共通点

イチローの素晴らしさについて多くの方が著書を書いているのですが、その中でも齋藤孝さんの「天才の読み方 究極の元気術」での解説、分析は読み応えがあります。

この「天才の読み方 究極の元気術」という本では、齋藤孝氏は「天才」としてピカソ、宮沢賢治、ココ・シャネルとともに、イチローを取り上げています。

この本では「天才」というものを『才能があるから何の苦労もせずに大きなことをなしとげた人、あるいは突発的に何かを思いつく「変人」というイメージ』ではなく、『さまざまな工夫をやりとげた「上達の達人」である』と定義し直しています。

というのも天才と呼ばれるような人たちは具体的な努力をしない人ではなく、現実には「明晰な上達の意識」を持っているからだと齋藤孝氏は述べています。

そのため天才と言われる人たちを遠く離れた存在ではなく、上達の秘訣を知っていて実行する人たちと捉えることで、私たちの生き方にも活かすことができると述べて、齋藤孝氏は4人の天才を選んで分析しています。

この著書の中で書かれているイチローの上達の秘密は、松山英樹のメンタリティ、特質、思考と似通ったものがあります。

齋藤孝氏はイチローが傑出した結果を残し、天才と呼ばれるような偉業を成し遂げることができた、その上達の秘密、秘訣が以下のようなものだと述べています。

(1) 大量に練習をこなすことで、質を飛躍的に高める

(2) 同じことを繰り返し練習して集中力を高める

(3) 自分の状態のチェックポイントを絞り込んでおく

(4) 信頼関係をバネにしてパワーアップする

引用元:「天才の読み方 究極の元気術」

それそれの項目について見ていきます。

(1) 大量に練習をこなすことで、質を飛躍的に高める

齋藤孝氏は、真の天才と呼ばれる人たちに共通する特徴は「仕事を大量にこなせる」ことだと述べ、具体例としてトルストイ、ドストエフスキー、バルザック、マルクスらも書いている量が膨大で、音楽家でもビバルディ、バッハ、ベートベン、そして若くして世を去ったモーツァルトも作曲した数は膨大だと述べます。

これらの人物が偉大な業績を残すことができたのは、量の積み重ねがあった末に、ある時に質的な変化、具体的には技術の飛躍的な向上などがあったからだと齋藤孝氏は述べた上で、以下のようなイチローの逸話を紹介します。

イチロー選手は数年前のキャンプで、バッティングマシーンでの練習が何時間にもわたったといいます。普通の選手は多くて二十分から三十分の練習のところ、イチローは二時間、三時間という、何「時間」という単位です。それをキャンプ中にずっとやり続けることができる。そんなイチローの練習する姿を見て、当時オリックスブルーウェーブの仰木彬監督は、「あれだけ練習すれば打てるわ。まぁ、普通の選手はあんな練習はできないがな」と言ったそうです。

引用元:天才の読み方 (だいわ文庫)P.211

では、なぜイチローはそれだけの大量の練習に取り組むことができるのかが疑問となりますが、以下のように齋藤孝氏は説明します。

なぜ苦にならないかというと、修行、練習が好きだからということ以上に、それがおもしろいと感じるからです。なせおもしろいかというと、イチローの例で言えば、彼にとっては球との対決が一回一回新鮮だったからです。
普通の選手だったら、「ああ、いまのバッティングは良かった」「いまのは悪かった」の二つに一つしかない。イチローの場合は、一回一回のバッティングで自ら課題を課します。たとえいい当たりでヒットになっても、自分の課題がこなせているかどうかの方が問題なのです。
このように、他の人にはわからない、言葉に出来ない「暗黙知」の世界の微妙な違いを、すべて意識化できるようになると、これは飽きることがありません。

引用元:天才の読み方 (だいわ文庫)P.215

なぜ飽きてしまうのかというと、「また同じだ」と感じてマンネリ化してしまうからです。ところが1回1回の細かい部分の違いを感じ取れるようになると、毎回違った出来事になるため新鮮な刺激となり飽きません。

イチローは1球1球打つたびごとに、他の人には感じ取れない微妙な違いを感じることができるので新鮮な感覚が持続し、飽きずに練習を継続できるということです。

そのため大量の練習をこなすことができるので多くの技術と経験が体に染み込んでいき、他を圧倒するような実績を残すことができています。

(2) 同じことを繰り返し練習して集中力を高める

しかし、そのような微妙な感覚を身につけるためには、かなりの集中力が必要となります。集中力が無ければ違いを感じ取ることはできないからです。

そのため集中力の有無が一流とそうでないところを隔てるラインとなるのですが、集中力は「同じことを繰り返す」ことで身につけることができる技術だと齋藤孝氏は述べます。

なぜ「同じこと」なのかというと、課題が変化すると新鮮に感じるので集中することが簡単になり、集中力の訓練にはならないからです。

集中力のない人でもテレビを見続けられるのは、視聴者が飽きて他の番組にチャンネルを変えてしまわないように、次々とテーマを変えていることにより、視聴者が新鮮に感じて飽きにくいためです。しかし、これは受動的な刺激によって見続けているだけで、自分の意志による集中力持続の訓練にはなっていません。

イチローが小学生のころからバッティングセンターで打ち続けていたことは有名な話ですが、少年時代から同じことを繰り返すことで、次第に集中力が鍛えられていったはずです。

同じ練習を繰り返すうちに深い集中を持続できるようになり、その研ぎ澄まされた集中力ゆえに1球1球の微細な違いを感じとれるようになり、飽きずに練習を続けることができるようになった結果、他の選手が真似のできないような技術を身につけたということです。

(3) 自分の状態のチェックポイントを絞り込んでおく

齋藤孝氏はイチローは練習にただ取り組んで、良い打球を打とうとするにとどまらず、いつでも打撃を良い状態にできるチェックポイントを絞り込む作業を行っていると述べて、以下のようなイチローの言葉を紹介します。

「上半身と下半身にポイントが一点ずつあるんですが、狂いを調整するためには下半身の使い方が重要なんですね。まあ、下半身の動きを具体的に言えば、右足の使い方と踏み込んでいく角度かな。この角度に狂いが生じてしまうと、球をしっかりと捉えたつもりでも凡打になってしまうんですよ」

引用元:天才の読み方 (だいわ文庫)P.231

この感覚を掴んだのは1999年の試合中にセカンドゴロを打ったときだったと本人が述懐しているのですが、その後、打撃の感覚は完全に変わったそうです。

「試行錯誤の時期はあったけど、再び明かりが灯らないトンネルの暗闇に閉じ込められるようなことは、もうないです。それまでは、分かりかけては消えてしまった感覚が、今では数学の定理のように明確に意識できます。二度と迷わなくていいわけですから不安に陥ることもないですよ。バッティングのレベルは変わっているはずです。」

引用元:天才の読み方 (だいわ文庫)P.237

実際には打撃には様々な動きがあって、それが連動して複雑に感じるものなのですが、イチローは2つのチェックポイントに絞り込んでいて、それをチェックすることで調子を立て直すことができていることになります。

イチローは2001年にアメリカに渡っていますが、その決断もこのチェックポイントの確立があったことが土台となったと考えられ、さらにアメリカですぐに首位打者をとれる要因となったことは間違いなさそうです。

このようにイチローは練習を重ねていく中で、自分のチェックポイントをより絞り込み、シンプルにできるからこそ、高いレベルのパフォーマンスを継続でき、他の追随を許さない結果を残すことができているということです。

(4) 信頼関係をバネにしてパワーアップする

天才だからと言って、誰の助けも必要がないわけではなく、とりわけ信頼関係、感覚を共有してくれるような人の存在が支えになると齋藤孝氏は述べます。

天才だけに、新たな課題にどんどんチャンレジしなくてはならない。上には上があるというように次々に要求されます。それだけに天才ほど不安が大きい。それに耐えていく、不安と闘っていくための基本的なパワーというのは、「人に信頼されている」ということであり、信頼できる、身をゆだねられる人がいるということです。甘えられることが、大きな安心感になってパワーを生むのです。

引用元:天才の読み方 (だいわ文庫)P.237

このような信頼関係を構築してくれたのが幼少期の父親でした。そしてイチローはそれを他人への感謝につなげることができていると齋藤孝氏は述べます。大切にされている、たから、自分も自分の周りを大切にしようというようにです。

「僕の性格としては、評価をしてくれる人に対して応えたいというエネルギーがとても大きいんですね。オリックスに入団して一年目、こんなことがありました。どこかの新聞の記者の方が『鈴木一朗という選手は、使い続ければ将来必ず首位打者をとる』という記事を書いてくれたことがあったんです。直接面識はないし、僕はその記者が誰だか分からないんだけど、とにかく『その人を喜ばせたいな』という気持ちがあったんですね。そういう人が一人でもいてくれたことがものすごくうれしくて、それは常にここ(胸)に入れてあったんですね。実際、首位打者になったときに、あの記事を書いてくれた記者のことを真っ先に考えました。

引用元:天才の読み方 (だいわ文庫)P.237

このように自分を信頼してくれる人の存在に感謝することができ、それをパワーの源にしながら努力を継続することができるということです。

このような四つの観点でイチローが卓越した技術を身につけ、傑出した成績を残すことができる「天才」となったのだと齋藤孝氏は分析しています。

インタビューとエピソードで見る松山英樹のメンタリティ、思考、特質

このようなイチローのメンタリティ、思考、特質は、松山英樹も同様に持ち合わせていると考えられます。

松山英樹がディフェンディングチャンピオンとして出場したメモリアル・トーナメント2015の公式カタログには、以下のような内容が記述されています。

『松山英樹は暗闇の中でもボールを打ち続けるなど、PGAツアーでも”練習の鬼(practice fiend)”として知られている。これは大学・高校時代から変わらないことだ。チームメイトが練習を終えた後、1人でドライビングレンジに残ってボールを打ち続けていた。この練習が東北福祉大に入学してから実り、注目を集めるようになる。』

松山英樹は、世界最高峰のPGAツアーでも最も練習をする選手としてPGAツアーメンバーにも、アメリカメディアにも認識されています。

その姿を良く現しているのがPGAツアーの公式Twitterアカウントがツイートした写真とコメントです。

「松山英樹は技術を磨くことをやめようとはしない。金曜日のイーストレイクでドライビングレンジに一番最後に残っていた男だ」とコメントされています。

たまたまその日遅くまでいたからではなく、これが日常的な出来事であったからこそ”never stop”という表現と写真付きでツイートされています。

PGAツアーで戦うプレイヤーたちは、ハイレベルの争いの中でシードを守り、優勝するためにハードな練習をこなしているのですが、その中にあっても松山英樹の練習量はかなり多いため、”練習の鬼(practice fiend)”として知られています。

学生時代から誰よりも多く練習をこなしながら集中力を研ぎ澄まし、その持続力も鍛えることで、より多くの練習をこなせるようになる。そしてその圧倒的な練習量で多くの経験が体に染み込んでいき、ショットの一回一回の微妙な違いを感じ取れるようになったといえます。

その微細な違いを感じ取る感性がすでに身についていることは、松山英樹の試合中のプレーに現れています。

今やアメリカの放送局では、フィニッシュで片手を離しても、ボールはバーディチャンスにつくということが松山英樹の代名詞のようになりつつあります。ほとんどの選手はショットのフィニッシュで手を離した時には、かなり大きなミスになることが多いのですが、松山英樹はそうでないことが現地のメディアにとっても興味深いようで、最近はそのたびに良い意味での笑いに包まれています。

片手を離しているわけですから「本人にとってはミスショットだった」はずですが、「実際の結果は酷いものではない」ということは、松山英樹の感覚が鋭敏で繊細なため感じとれる微細なミスで、選手によっては芯で捉えたと感じるレベルなのかもしれません。

このように鋭敏な感覚で一打一打に違いを感じれる「暗黙知」をイチローと同様に身につけているからこそ、松山英樹は大量の練習を飽きることなくできていると考えられます。

そのように多くの練習をしている松山英樹ですが、探し求めているものがあるとインタビューで話しています。

― 軸とは。
 「例えば、不調で思うようなプレーができない時。自分の体を動かす際に、ここを意識しておけば大丈夫!というものがある。ここをこうしたら良くなる、という自分なりの軸がある。それが強い人でしょう」
 ― 当時はあったのか。
 「あった。体も変わって、けがもして、クラブも替わって…いろいろある。仕方がないことだけど。メジャーで一番良かった13年の成績を出せていない。(13年は)日本でほとんどトップ10を外していない。米ツアーに置き換えた場合、トップ20は、ほぼほぼ外さないゴルフができるはず。でも、できないのは、すぐ崩れちゃうから。少し意識したら、全米も悪いなりに修正できるはず。それができない」
 ― ラウンド中の修正は得意だったはず。
 「うん。今はできない」
 ― 軸はいつなくなった?
 「13年以降、一度も感じたことはない。最初に背中をけがして、次に親指をけがしたけど、それまではあった。だから、親指が痛くても(優勝で賞金王を決めた13年の)カシオを勝てたんだと思う」
 ― 簡単には戻らない?
 「何か軸になるもの見つけなきゃならない。でも、それだけ求めてもよくないし、違うものにも取り組まなきゃならない。

引用元:「3年前の方が絶対うまかった」…松山英樹2時間激白インタ

この記事を読めば、イチローが探し求め続けた末に掴んだものを、松山英樹が探し求めて練習に取り組んでいることがわかります。また故障するまでは自分の明確なチェックポイントも作れていたことも同時に読み取ることができます。

残念ながらイチローのように技術的に整理はできていませんが、その思考とアプローチは非常に似通っていることがわかるのではないでしょうか。

最後に感謝すること、信頼関係が力になるということですが、2015年の文藝春秋10月号のインタビュー記事で以下のように松山英樹は話しています。

毎試合、勝つための準備をしてコースに向かい、いざコースに出たら勝ちに行く。僕を支えてくれているチームスタッフも、同じ気持ちです。
僕が優勝を目指さず、「上位に入ればいいや」という考え方をしたら、心をひとつにして戦ってくれているキャディの(進藤)大典さんやトレーナーの飯田(光輝)さんらはすぐに僕から離れていくでしょう。
僕に限らず、チームのスタッフは金銭欲や名誉欲のために戦っているわけではない。トーナメントで優勝することの喜びを、みんなで共有したい。ただそれだけでなんです。
大典さんは「一シーズン目に比べれば、トレーニングに費やす時間やゴルフの練習量が二倍になった」と報道陣に話していたみたいですが、僕の感覚としては減っている気がしています。
疲れを残さないように「これぐらいにしておこう」と考えることが多くなり、反対に自分の限界近くまで、トレーニングで追い込むことがなくなった。時にはそういうことも必要だと思うんです。
よく言えば、自分自身をマネジメントできるようになったということなんでしょうが、悪く言えば守りに入っている気がしなくもない。
もちろん、自分が本当に間違った判断をしていれば大典さんや飯田さんが怒ってくれると思いますし、僕がサボっていたら無理にでもやらせようとするはずです。

引用元:文藝春秋 2015年10月号

松山英樹とチームのスタッフとの信頼関係が深く、その絆があるがゆえに目標に力強く向かうことができ、チームで喜びを分かち合いたいから、よりハードなトレーニング、練習に取り組むことができていることになります。

このように松山英樹の思考、メンタリティ、特質は世界の一流プレイヤーの中でも、エリートと呼ぶにふさわしいイチローのそれと似通っています。

そして松山英樹が急速にレベルアップするPGAツアーの中で、年々成績を向上させることができているのは、このような「上達の達人」の思考、メンタリティを持っていることの証でもあります。

イチローはすでにプロキャリアが24年に達していますが、松山英樹のプロキャリアはわずかに3年半で、多くの伸びしろがあります。

日本人ができなかったメジャー制覇を成し遂げるだけでなく、世界のトッププレイヤーの中でもさらにエリートと呼ばれるような世界を、私たちに見せてくれることを期待しています。

次回は、今回書いた内容を踏まえて、少し違った観点で松山英樹とイチローの共通点を探ってみたいと思います。

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2 Responses to “イチローと松山英樹(1) 『上達の達人 – 大量に練習をこなすことで、質を飛躍的に高める』”

  1. golf より:

    テシさん、コメントありがとうございます。
    楽しんでいただけたようで何よりです(^.^)
    基本的には2人の具体的な比較になるようなコメントを避けるようにして、2人の分析は、それぞれのページで行うようにしています。なので、申し訳ないのですが、コメントそのものは公開するのを控えさせていだきました。すみません。
    テシさんの疑問に関しては、私なりには答えがあるのですが、このページにはふさわしくないように感じるので、控えさせていただきたいと思います。いずれ彼の分析ページで言及するかもしれません。

  2. テシ より:

    運営方針は読んでいて気をつけているつもりでしたが、お手数をおかけしました。
    golfさん個人のブログなので、本当はこちらが謝罪しなければなりません。申し訳ございません。
    今後ももし相応しくない場合にはお手数ですが非公開でお願い致します。
    今後も更新を楽しみにしております。
    特にこのコメントの私なりの答えは楽しみです(^-^)/

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