ゴルフと神経科学(1)イメージトレーニングによる技術の向上

数回にわたり「ゴルフと神経科学(脳科学)」というテーマで投稿をアップしていきます。

内容的には「スポーツと神経科学」の方が適切なのですが、あえて「ゴルフと神経科学」というタイトルとしたのは、松山英樹に代表される海外に挑戦するプロゴルファー、そして世界を目指すアマチュアやジュニアの何かしらの役に立つことを願っているためです。

また、ゴルフなどのスポーツ全般だけでなく、音楽、芸術、仕事などの技術を向上させたい人にとっても参考になる内容ではないかと考えています。

なお、このシリーズの投稿は「勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること(内田暁/小林耕太著・集英社新書)」を参考、引用しています。

内田暁氏はテニスを中心に取材しているスポーツライターで、小林耕太氏は同志社大学生命医科学部医情報学科の准教授で、専門は神経科学、神経行動学です。

2017年11月に発行された新書で、世間で大きな注目を集めるようなベストセラーとなってはいません。しかし、スポーツと神経科学というテーマでありながら、多くの分野に役立つ内容を学ぶことができる良書のため、一読することをオススメします。

この本の内容をベースにした第1回のテーマは「イメージトレーニングによる技術の向上」です。

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反復練習がもたらす脳への影響

臨床実験などを経て、脳のどの領域が、体のどの部位を担当しているかが明らかになり、「脳のマップ」として示されています。
指先、手、クビ、肩、足など細かい体の各部位を、それぞれの脳の担当領域が動かしたり、感覚を得たりしていることになります。

一流のアスリートやアーティストが信じられないような技術を使いこなせるのは、脳の領域とそれに対応する体の部位との連携がスムーズかつ高速であるためです。

では、どのようにすれば、そのような状態を作り上げることができるのでしょうか?

その答えは非常にシンプルで反復練習です。

いかなる分野においても、成功者は長時間に渡る厳しい練習を積み重ねており、一流になる目安は、1万時間の計画的訓練だと言われている。技の習得においては、反復練習による、脳への”プログラムのインプット”が必要不可欠だからだ。しかも、スポーツのように流動性が高い分野においては、あらゆる状況を想定したプログラムの確立が求められる。
“脳のプログラム”の正体は”細胞が作るネットワーク”である。ネットワークの配線は、1日や1週間などの短い訓練では殆ど変化しない。全く新しい高度なプログラムを脳に書き込むには、長期間に渡る訓練が不可欠だ。

引用元:「勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること(集英社新書 P.18)

多くの反復練習を長期間にわたり行うことで、ある技術に関する細胞のネットワークを作り上げることができます。その結果、脳と体の連携が効率的なものとなり、卓越した技術を、自在に使いこなせるようになるということです。

反復練習がそのような効果を生み出す理由は、以下のように説明がなされています。

脳の場合、変形を促す外力とは、”肉体で特定の動きを、繰り返し練習すること”だ。人が身体を動かす時、肉体に指令を与えているのは脳である。例えば、手を動かして何かをつかもうとした時には、運動野の手に対応する部位が活動し、動いた手が何かを触った時には、脳の感覚野の指や手のひらに対応する領域が感受する。そして、このように脳と肉体の間で情報伝達のやりとりが行われるなかで、脳が徐々に学習していく。ピアニストのように指を頻繁に使う人の場合は、脳が「もっと多くの神経を指の活動に充てる必要がある」と感じたかのように、手の運動や感覚に対応する活動領域が広がっていくのだ。

引用元:「勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること(集英社新書 P.50)

繰り返し練習すると、「同じ動きが繰り返し、繰り返し行われているということは、この動きは重要なものらしい。この動きための細胞やネットワークを強化する必要がある」と、あたかも脳が判断したかのように、身体の動きに対応する脳の領域が拡大していくということです。

実際にMRIを使ってピアニストの脳の運動野の体積を測った結果、指を動かす脳の部位の体積は一般の人よりも大きくなっていることが確認されています。

このように、反復練習は必要な筋肉を鍛えることになるだけではなく、スムーズかつ高速、そして鋭敏な感覚を動かすことができるように「脳を鍛える」ことになります。

一流のアスリート、アーティストは、必要な技術を自由に使いこなせるように、脳が鍛られ、脳の細胞ネットワークが構築されているということです。

メンタル・プラクティス(イメージトレーニング)のもたらすもの

ゴルフやテニスなどのスポーツ、ピアノなどの発表会の前日などに、プレーしたり、演奏したりしている自分の姿を想像することを「イメージトレーニング」と一般的に呼んでいます。

このような実際の体の動きを伴わない、脳内のみで繰り返される練習を神経科学では「メンタル・プラクティス」と呼んでいます。

メンタル・プラクティス(イメージトレーニング)を行うことは、本番で正しい状況判断をしたり、冷静さを保つ上で効果的であるとされているため、メンタル面を強化するで方法論の一つと捉えられています。しかし、その効果は精神力を鍛えるだけではないようです。

小林耕太氏は、「ローマ大学の実験において、熟練したアスリートは頭の中でプレーの状況を考えるだけでも脳が筋肉に情報を伝達していることが確認されている」ことを紹介した上で、以下のように書いています。

直訳すれば「メンタル=精神の」「プラクティス=訓練」なので、これらは精神力を鍛えるための行為と思われがちかもしれない。しかし、実際には脳内の神経細胞の働きを向上させ、肉体的なパフォーマンス強化につながることが、近年の研究で明らかにされている。つまり、メンタル・プラクティスで鍛えているのは、精神というより脳なのだ。

引用元:「勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること(集英社新書 P.64)

イメージトレーニング、メンタル・プラクティスを行うと、実際に体を動かしていないにも関わらず、脳が活動して筋肉へ情報を伝達することになります。つまり、頭の中で想像するだけで、実際に体、筋肉に動かすのと同様の反応が起こっていることになります。

メンタル・プラクティスの効能は論文、実験などで検証済み

小林氏は、このようなメンタル・プラクティスの効能、効果を証明する実験や論文が、1970年代から90年代にかけて多く発表されていると述べて、1978年と1995年の実験と論文の内容を紹介しています。

1978年の論文ではダーツの練習とパフォーマンスを元に、メンタル・プラクティスの効果を測定しています。
この実験では参加者を「メンタル・プラクティスのみ」「実際のダーツの練習のみ」「メンタル・プラクティスとダーツを投げる素振りを行う」「何もしない」という4つのグループに分けて、一定期間後にスコアを測っています。

結果は、「メンタル・プラクティスのみ」「メンタル・プラクティスとダーツを投げる素振りを行う」グループが、「何もしない」グループよりも遥かに高いスコアを出すものとなりました。
メンタル・プラクティスがパフォーマンスの強化に効果があることが確認されたことになります。

上記の実験では「メンタル・プラクティスがパフォーマンスに与える効果」が確認されているのですが、1995年の実験では、加えて「脳内の神経細胞マップに対する影響」も明らかにされています。

実験は、ピアノなど楽器の演奏経験がなく、なおかつタイプライターなど指を使う訓練を受けていない30代から50代の男女9名に、ピアノの練習を用いて行われています。

実験は2段階で行われているのですが、第1段階では全員が「5本指演奏訓練法」と呼ばれるレッスンカリキュラムを毎日2時間、5日間に渡って行います。

第2段階の5日間では「毎日2時間の練習を行う」「毎日2時間のメンタル・プラクティスを行う」「練習もメンタル・プラクティスもしない普通の生活をする」という3つのグループに分けられ、最後にピアノのピッチやタッチの正確性によって精度、熟練度が測定されています。

その結果は、「毎日2時間の練習を行うグループ」が圧倒的に良い成績となったのですが、「メンタル・プラクティスのみのグループ」は、「何もしない」グループよりも遥かに良い成績を残すというものでした。
そのメンタル・プラクティスのみのグループのパフォーマンスの精度は、練習を行っていたグループの3日目程度の熟練度であったとされています。

つまり毎日メンタル・プラクティスをするだけでも、毎日体を動かして練習していたグループの6割程度の技術的な向上を成し遂げることができたことになります。

この実験結果からメンタル・プラクティス(イメージトレーニング)が、肉体的なパフォーマンス向上につながることが明らにされているのですが、さらに興味深い内容も明らかになっています。(太字は管理人によるものです。)

そして驚いたことに、あるいは博士たちが予測した通り、メンタル・プラクティスにみを行っていたグループ2でも、グループ1と同じ脳の領域で、神経細胞の活性化が確認された。つまり、身体を動かすことによって起きると思われていた”脳内マップの変化”が、メンタル・プラクティスのみによって起きることが証明されたのである。
さらに興味深いのは、この後に行われた追加実験だ。グループ2の被験者たちは、5日間のメンタル・プラクティスの最後に、2時間だけ実際にピアノを使って、”5本指演奏訓練”を行った。そして練習後にもう一度、パフォーマンステストを受けたのだ。すると熟練度は飛躍的に上昇し、5日間訓練を継続していたグループ1と、ほぼ同等の成績を残したのである。

引用元:「勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること(集英社新書 P.68)

反復練習をすることで、その動きのための脳の領域が活性化、拡大するのですが、メンタル・プラクティスでも同様の効果が確認できたことになります。

さらにインパクトがあるのが「5日間、毎日2時間練習したグループ」と「5日間、毎日2時間メンタル・プラクティスをし、最後に2時間だけ実際に練習したグループ」の熟練度が同程度になったという事実です。

5日間で10時間練習したグループと、5日間で10時間イメージした後に2時間練習したグループの熟練度が同じになってしまうのは、何とも不公平な気もします。

ですが、それだけイメージトレーニング、メンタル・プラクティスが技術の向上に効果的であることを証明していることにもなります。

メンタル・プラクティスを日々の練習の一環にすると効果的

これまでの内容を総合すると、イメージトレーニング、メンタル・プラクティスを効果的に練習に取り入れれば、肉体を酷使することによる疲労の蓄積と故障のリスクを抑えながら、技術を向上させることができると考えられます。

イメージトレーニング、メンタル・プラクティスを本番前にすることは、実際の場面で冷静さを保ち、適切な判断をする上で効果的です。
さらに、そこから踏み込んで、日々の練習に取り入れて継続していけば、肉体的なパフォーマンス、技術の向上においても大きな効果が期待できることになります。

ただ、このイメージトレーニング、メンタル・プラクティスをする場合には、注意すべきことがあります。

同時に気をつけなくてはいけないのは、誤った動きをメンタル・プラクティスで反復するのは逆効果だということである。好ましくない動きを繰り返しイメージすることで、あなたの脳内に、誤ったマップが描きこまれてしまうのだから・・・・・。

引用元:「勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること(集英社新書 P.69)

ミスの内容を確認するために、その時の映像を少し見る程度であれば、「繰り返し」ではないため脳内マップへの影響は小さいと考えられます。

しかし、ミスをした時の映像を繰り返し見ることは、その動きをイメージすることにもつながるため、結果として好ましくない動きを脳にプログラムとしてインプットしてしまう可能性があります。

脳と身体のメカニズムを考えれば、良い時のパフォーマンスを映像で繰り返し見て、それを繰り返しイメージした後に、練習する方が効果的、効率的であると言えそうです。

次回は「ゴルフと神経科学(2)エリートと凡人を隔てるもの」です。

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