ゴルフと神経科学(2)エリートと凡人を分け隔てるもの

前回のゴルフと神経科学(1)では、反復練習が脳に与える影響とメンタルトレーニングの効果について「勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること(内田暁/小林耕太著・集英社新書)」を参考・引用して、紹介しました。

今回の第2回は「ゴルフと神経科学(2)エリートと凡人を分け隔てるもの」というタイトルで、超一流、エリートと呼ばれる選手、アーティストが持っている『運動の自動化』という内容を見ていきます。

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デリバレート・プラクティス(計画的訓練)

前回の投稿で説明したように、反復練習を多くおこなうと、その体の動きに対応している脳の領域が拡大し、よりスムーズかつ高速、そして鋭敏に反応できるようになります。

「天才は練習嫌い」というようなイメージがあるものの、実際には非常に多くの練習、訓練をこなしているのですが、そういった姿、素振りを人に見せないようにする姿勢があるため、そのような誤解が生じていると考えられます。

いかなる分野でも、その道のエキスパートになるためには、約1万時間の累積練習時間が必要だとよく言われる。この考えは”1万時間の法則”もしくは”10年ルール”などと呼ばれ、超一流になるための一つの指標として知られている。

引用元:勝てる脳、負ける脳(集英社新書 P.82)

10年というような長期間に渡り、毎日3時間の練習を継続することなしには超一流にはなれないと考えられています。しかし、ただ、長時間やっていれば良いわけではありません。毎日自転車を長時間乗っている人が、オリンピックに出れるようなレベルに達したり、プロの競輪選手になれたりはしないという事実からも、それは明白です。

ただ、長期間、長時間にわたり練習するだけでは不十分で、その練習がデリバレート・プラクスティス(計画的訓練)でなければならないことが研究によって明らかにされています。

フロリダ州立大学の心理学者であるアンダース・エリクソン氏は、厳しい練習の重要性と、先天的な才能がいかに過大評価されてきたことを明らかにしています。

内田暁/小林耕太の著書では以下のようなアンダース・エリクソン氏による実験が紹介されています。


  • 対象:西ベルリン音楽アカデミーのバイオリニスト
  • 方法:能力に応じて3つのグループに分け、何歳から始めたのか、親族に音楽家はいるのか、1日何時間の練習をしたのか、などを聞き取り調査。グループは(1) 国際コンクールに入賞し、将来的にソリストになれると期待される学生、(2) 優秀でオーケストラの奏者にはなれるものの、第1のグループよりは劣る学生、(3) プロの奏者は難しく、音楽の先生になるのが目標の学生に分けられる。

その結果は、レッスンを受け始めた時期、音楽家になろうと決意した時期、教わった音楽教師の人数、バイオリン以外に学んだ楽器、などの多くの点で非常に似通っていることが判明しています。
しかし、この3つのグループで大きな相違が生じたのが“まじめに練習してきた累計時間”ということが、聞き取り調査により明らかになります。

第1のグループのバイオリニストたちは、20歳になるまでに平均で1万時間の練習時間を積み重ねていたのだ。これは第2グループよりも2000時間多く、第3のグループに比べると6000時間も多い数字であった。

引用元:勝てる脳、負ける脳(集英社新書 P.87)

対象となったバイオリニストたちの多くは8歳からバイオリンを始めていますので、最も優秀なグループは12年に渡り1万時間、すなわち1日2時間以上の厳しい練習を365日欠かさずにやってきたことになります。

第2グループと第3グループにもデリバレート・プラクティス(計画的訓練)の累積時間には、明確に違いがあります。このことからも、後天的な要素、すなわち本人がどれだけ厳しい練習を継続できたかが、エリートになるか、一流になるのか、それとも凡人なるのかを分けるポイントとなることがわかります。

この厳しい練習、デリバレート・プラクティスの定義について、アンダース・エリクソン氏は以下のように示しています。

  • 明確な目標を掲げ、そこに到達すべく精密に構成された練習であること。
  • 弱点を克服するために、具体的な課題が課されていること。
  • 上達に向けて、ちゃんと正しい方向に向かっているかどうか、第三者(コーチや先生)によって注意深くチェックされること。

引用元:勝てる脳、負ける脳(集英社新書 P.88)

このような定義に合致する厳しい練習を、休まずに毎日2時間から3時間に渡り行い、なおかつ10年以上の期間継続することが超一流、エリートと言われる領域に達するためには必要ということになります。

運動のプログラム化

複雑な動きであっても、繰り返し継続的に行うことで、脳に運動のプログラムが書き込まれることになり、頭で意識することなく高度な技術を使いこなせるようになります。

多くの時間をデリバレート・プラクスティス(計画的訓練)に費やすことは、このような運動のプログラムを脳に多くインプットすることになります。

このような運動のプログラム化のプロセスについては、運動心理学の先駆者である心理学者のポール・フィッツ氏によって、大きく3つの段階に分けられていると説明されています。


  • 運動の課題や目標を達成する方法について、意識的に考えながら注意して行動を実行する

    ひとつひとつの動作を意識的に行っている段階。脳では運動に関する領域だけでなく、注意、意識などを司る前頭前野や前帯状皮質なども活発に。

  • 意識に頼った段階を徐々に脱し、無意識へと移行

    一連の動作を意識せずに行えるようになり、動きもスムーズに。動きがオートマチックになる分、逆に動きを言葉で説明するのが難しくなる。しかし、引き続き意識を司る脳の領域も動いているため、自分で意識して修正、調整できる段階

  • 運動の自動化

    高度な技術も半ば反射のように迅速に実行できるようになる。意識を司る領域の活動は減少し、筋肉の働きや感覚情報の入力に直接関わっている運動野、大脳基底核、小脳などが活発に


練習を繰り返し行うことで、ひとつひとつの動きを確認しながら意識してやっている段階から始まり、次には意識することなくできるようになり、最終的には反射的に行えるようになるということです。

一流のアスリートは非常に高度な技術を、必要に応じて、瞬時に繰り出すことができるのですが、その技術に必要な動きが脳にプログラミングされて、「運動の自動化」に至るまで練習を繰り返しているからこそ、なせる業であるということです。

このように「高度な技術に必要な運動が自動化されている」こと、そして「自動化されている技術の数が多い」からこそ、アスリート、アーティストとして抜きん出た立場に立つことができることになります。

この運動の自動化がエリート、超一流と呼ばれる人々の強みです。しかしながら、練習に練習を積み重ねてインプットしたプログラムが機能しなくなってしまう瞬間が、そのような選手たちにも訪れます。

次回は「なぜ勝利を目前にすると崩れてしまうのか?」「なぜ勝利を意識すると崩れてしまうのか?」がテーマとなります。

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